からず、汚穢《おわい》に近接すべからず。この金玉の身をもって、この醜行は犯すべからず。この卑屈には沈むべからず。花柳《かりゅう》の美、愛すべし、糟糠《そうこう》の老大、厭《いと》うに堪えたりといえども、糟糠の妻を堂より下すは、我が金玉の身に不似合なり。長兄愚にして、我れ富貴なりといえども、弟にして兄を凌辱するは、我が金玉の身によくすべからず。ここに節を屈して権勢に走れば名利を得べしといえども、屈節もって金玉の身を汚すべからず。あたうるに天下の富をもってするも、授くるに将相の位をもってするも、我が金玉、一点の瑕瑾《かきん》に易《か》うべからず。一心ここにいたれば、天下も小なり、王公も賤《いや》し。身外無一物、ただ我が金玉の一身あるのみ。一身すでに独立すれば、眼《まなこ》を転じて他人の独立を勧め、ついに同国人とともに一国の独立を謀《はか》るも自然の順序なれば、自主独立の一義、もって君に仕うべし、もって父母に事《つか》うべし、もって夫婦の倫をまっとうし、もって長幼の序を保ち、もって朋友の信を固うし、人生居家の細目より天下の大計にいたるまで、一切の秩序を包羅《ほうら》して洩らすものあるべからず
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