か世の士君子、あるいは筆を投じて戎軒《じゅうけん》を事とするあり、あるいは一書生たるを倦《う》みて百夫の長たらんとするあり、あるいは農を廃して兵たる者あり、商を転じて士たる者あり、士を去りて商を営む者あり。事緒《じしょ》紛紜《ふんぬん》、物論《ぶつろん》喋々《ちょうちょう》、また文事をかえりみるに遑《いとま》あらず。ああ、これ、革命の世に遁《のが》るべからざるの事変なるべきのみ。
この際にあたりて、ひとり我が義塾同社の士、固く旧物を守りて志業を変ぜず、その好むところの書を読み、その尊ぶところの道を修め、日夜ここに講究し、起居常時に異なることなし。もって悠然、世と相《あい》おりて、遠近内外の新聞の如きもこれを聞くを好まず、ただ自から信じ自から楽しみ、その道を達するに汲々《きゅうきゅう》たれば、人またこれに告ぐるに新聞をもってする者少なく、世間の情態、また何様《なによう》たるを知らず、社中自からこの塾を評して天下の一桃源と称し、その景況、まったく世と相反するに似たり。
然りといえども、よく事理を詳《つまびらかに》し、そのよるところ、その安んずるところを視察せば、人おのおのその才に所長《
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