れならばと父母の間に内決して、先ず本人の意向如何を問い、父母の決したる所に異存なしと答えて、事始めて成るの風なり。故に表面より見れば子女の結婚は父母の意に成り、本人は唯成を仰ぐのみの如くなれども、其実は然らず。父母は唯発案者にして決議者に非ず、之を本人に告げて可否を問い、仮初《かりそめ》にも不同心とあらば決して強《し》うるを得ず。直《ただち》に前議を廃して第二者を探索するの例なれば、外国人などが日本流の婚姻を見て父母の意に成ると言うは、実際を知らざる者の言にして取るに足らず。譬《たと》えば封建の時代に武家は百姓町人を斬棄てると言いながら実際に斬棄てたる者なきが如く、正式に名を存するのみにして習慣の許さゞる所なり。但し天地は広し、真実の父母が銭の為めに娘を売る者さえある世の中ならば、所謂《いわゆる》親の威光を以て娘の嫁入を強うる者もあらん。昔の馬鹿侍が酔狂に路傍の小民を手打にすると同様、情け知らずの人非人として世に擯斥《ひんせき》せらる可きが故に、斯《かか》る極端の場合は之を除き、全体を概して言えば婚姻法の実際に就き女子に大なる不平はなかる可し。
一 父母が女子の為めに配偶者を求むるは至
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