ることなれば、今日|遽《にわか》に之を起して遽に高尚の門に入れんとするも、言う可くして行わる可らざるの所望なれば、我輩は今後十年二十年の短日月に多きを求めず、他年の大成は他年の人の責任に遺して今日は今日の急を謀り、兎にも角にも今の女子をして文明普通の常識を得せしめんと欲する者なり。物理生理衛生法の初歩より地理歴史等の大略を知るは固より大切なることにして、本草《ほんぞう》なども婦人には面白き嗜《たしな》みならん。殊に我輩が日本女子に限りて是非とも其智識を開発せんと欲する所は、社会上の経済思想と法律思想と此《この》二者に在り。女子に経済法律とは甚だ異《い》なるが如くなれども、其思想の皆無なるこそ女子社会の無力なる原因中の一大原因なれば、何は扨置き普通の学識を得たる上は同時に経済法律の大意を知らしむること最も必要なる可し。之を形容すれば文明女子の懐剣《かいけん》と言うも可なり。
一 女性は最も優美を貴《たっと》ぶが故に、学問を勉強すればとて、男書生の如く朴訥《ぼくとつ》なる可らず、無遠慮なる可らず、不行儀なる可らず、差出がましく生意気なる可らず。人に交わるに法あり。事に当りて論ず可きは大に論
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