丈《だ》けの体動なくしては、食物こそ却て発育の害なれ。田舎の小民の子が粗食大食勝手次第にして却て健康なる者多し。京都大阪辺の富豪家に虚弱なる子あれば、之を八瀬大原《やせおおはら》の民家に託して養育する者ありと言う。田舎の食物の粗なるは勿論のことなれども、田舎の物を食して田舎風に運動遊戯すれば、身体に利する所は都会の美食に勝るものあるが故なり。左《さ》れば小児を丈夫に養育せんとならば、仮令《たと》い巨万の富あるも先ず其家を八瀬大原にして、之に生理学問上の注意を加う可きのみ。
一 尚《な》お成長すれば文字を教え針持つ術を習わし、次第に進めば手紙の文句、算露盤の一通りを授けて、日常の衣服を仕立て家計の出納《すいとう》を帳簿に記して勘定の出来るまでは随分|易《やす》きことに非ず。父母の心して教う可き所なり。又台所の世帯万端、固《もと》より女子の知る可き事なれば、仮令い下女下男|数多《あまた》召使う身分にても、飯の炊きようは勿論、料理献立、塩噌《えんそ》の始末に至るまでも、事|細《こまか》に心得置く可し。自分|親《みず》から手を下さゞるにもせよ、一家の世帯は夢中に持てぬものなれば、娘の時より之に
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