(家の幅なり)の方、三尺|毎《ごと》にいろはの印を付け、桁行《けたゆき》(家の長さ)の方、三尺毎に一二三を記し、いの三番、ろの八番などいうて、普請の仕組もできるものなり。大工のみにかぎらず、無尽講《むじんこう》のくじ、寄せ芝居の桟敷《さじき》、下足番《げそくばん》の木札等、皆この法を用うるもの多し。学者の世界に甲乙丙丁の文字あれども、下足番などには決して通用すべからず。いろはの用法、はなはだ広くして大切なるものというべし。
然るに不思議なるは、王制維新以来、五十|韻《いん》ということを唱《となえ》だして、学校の子供に入学のはじめより、まずこの五十韻を教えて、いろはを後にするものあり。元来五十韻は学問(サイヤンス)なり。いろはは智見(ノウレジ)なり。五十韻は日本語を活用する文法の基《もとい》にして、いろははただ言葉の符牒《ふちょう》のみ。
この符牒をさえ心得れば、たといむつかしき文法は知らずとも、日用の便利を達するに差支えはなかるべし。文法の学問、はなはだ大切なりといえども、今日の貧民社会、まず日用を便じて後の学問ならずや。五十韻を暗誦して、いろはを知らざる者は、下足番にも用うべから
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