慶応義塾新議
福沢諭吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)有志の輩《はい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)毎月金二|分《ぶ》ずつ

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(例)[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
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 去年の春、我が慶応義塾を開きしに、有志の輩《はい》、四方より集り、数月を出でずして、塾舎百余人の定員すでに満ちて、今年初夏のころよりは、通いに来学せんとする人までも、講堂の狭きゆえをもって断りおれり。よってこのたびはまた、社中申合わせ、汐留《しおどめ》奥平侯の屋鋪《やしき》うちにあきたる長屋を借用し、かりに義塾出張の講堂となし、生徒の人員を限らず、教授の行届くだけ、つとめて初学の人を導かんとするに決せり。日本国中の人、商工農士の差別なく、洋学に志あらん者は来り学ぶべし。
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一、入社の式は金三両を払うべし。
一、受教の費《ひ》は毎月金二|分《ぶ》ずつ払うべし。
一、盆と暮と金千|匹《びき》ずつ納むべし。
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ただし金を納むるに、水引《みずひき》のしを用ゆべからず。
[#ここで字下げ終わり]
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一、このたび出張の講堂は、講書教授の場所のみにて、眠食の部屋なし。遠国より来る人は、近所へ旅宿すべし。ずいぶん手軽に滞留すべき宿もあるべし。
一、社中に入らんとする者は、芝|新銭座《しんせんざ》、慶応義塾へ来り、当番の塾長に謀《はか》るべし。
一、義塾読書の順序は大略左の如し。
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社中に入り、先ず西洋のいろはを覚え、理学初歩か、または文法書を読む。この間、三ヶ月を費《ついや》す。
三ヶ月終りて、地理書または窮理《きゅうり》書一冊を読む。この間、六ヶ月を費す。
六ヶ月終りて、歴史一冊を読む。この間、また、六ヶ月を費す。
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 右いずれも素読《そどく》の教を受く。これにてたいてい洋書を読む味も分り、字引を用い先進の人へ不審を聞けば、めいめい思々《おもいおもい》の書をも試みに読むべく、むつかしき書の講義を聞きても、ずいぶんその意味を解《げ》すべし。まずこれを独学の手始《てはじめ》とす。かつまた会読《かいどく》は入社後三、四ヶ月にて始む。これにて
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