おいて仏国|盛《さかん》なり英国富むというといえども、その富のよってきたるところは何処《いずこ》にあるや。竜動《ロンドン》に巍々《ぎぎ》たる大廈《たいか》石室《せきしつ》なり、その市街に来往する肥馬軽車なり、公園の壮麗、寺院の宏大、これを作りてこれを維持するその費用の一部分は、遠く野蛮未開の国土より来りしものならん。ただに遠国のみならず、現に両国境を接する日耳曼《ゼルマン》と仏蘭西との戦争において、日は仏より五十億フランクの償金を取上げたり。他なし、隣国を貧にして自から富むの手段のみ。
かくの如きはすなわち、日耳曼の人民は隣人の貧困をみて愉快を覚ゆる者ならん。けだし今の世界各国の人民は、自から安楽を知りて他の不幸を知らざる者なり。一国内形体の安全を求めて、国外の安全に愉快を覚ゆるの精神に乏しき者なり。すなわち国の教育の未だ上達せざるものといいて可なり。
底本:「福沢諭吉教育論集」岩波文庫、岩波書店
1991(平成3)年3月18日第1刷発行
底本の親本:「福沢諭吉選集 第3巻」岩波書店
1980(昭和55)年12月18日第1刷発行
初出:「東京学士会員雑誌 第1号」
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