女工場《じょこうじょう》と唱《となう》るものあり。英国の教師夫婦を雇い、夫《おっと》は男子を集めて英語を授け、婦人は児女をあずかりて、英語の外にかねてまた縫針《ほうしん》の芸を教えり。外国の婦人は一人なれども、府下の婦人にて字を知り女工に長ずる者七、八名ありて、その教授を助けり。
 この席に出でて英語を学び女工を稽古する児女百三十人余、七、八歳より十三、四歳、華士族の子もあり、商工平民の娘もあり。おのおの貧富にしたがって、紅粉《こうふん》を装い、衣裳を着け、その装《よそおい》潔《きよ》くして華ならず、粗にして汚れず、言語|嬌艶《きょうえん》、容貌温和、ものいわざる者も臆《おく》する気なく、笑わざるも悦ぶ色あり。花の如く、玉の如く、愛すべく、貴むべく、真に児女子の風を備えて、かの東京の女子が、断髪素顔、まちだかの袴《はかま》をはきて人を驚かす者と、同日の論にあらざるなり。
 この学校は中学の内にてもっとも新《あらた》なるものなれば、今日の有様にて生徒の学芸いまだ上達せしにはあらざれども、その温和柔順の天稟《てんぴん》をもって朝夕英国の教師に親炙《しんしゃ》し、その学芸を伝習し、その言行を
前へ 次へ
全8ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング