十石の者最も多し。藩にて要路に立つ役人は、多くはこの百石[#ここから割り注]名目のみ[#ここで割り注終わり]以上の家に限るを例とす。藩にて正味二、三十石以上の米あれば、尋常《じんじょう》の家族にて衣食に差支《さしつかえ》あることなく、子弟にも相当の教育を施《ほどこ》すべし。
 これに反して下等士族は十五石|三人扶持《さんにんぶち》、十三石|二人扶持《ににんぶち》、或は十石|一人扶持《いちにんぶち》もあり、なお下《くだっ》て金給の者もあり。中以上のところにて正味七、八石|乃至《ないし》十餘石に上《のぼ》らず。夫婦|暮《ぐら》しなれば格別《かくべつ》、もしも三、五人の子供または老親あれば、歳入《さいにゅう》を以て衣食を給するに足《た》らず。故に家内《かない》力役《りきえき》に堪《たう》る者は男女を問わず、或は手細工《てざいく》或は紡績《ぼうせき》等の稼《かせぎ》を以て辛《かろ》うじて生計《せいけい》を為《な》すのみ。名は内職なれどもその実《じつ》は内職を本業として、かえって藩の公務を内職にする者なれば、純然たる士族に非ず、或はこれを一種の職人というも可《か》なり。生計を求むるに忙《いそが》
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