きい》の内外を争い、御目付部屋《おめつけべや》の御記録《ごきろく》に思《おもい》を焦《こが》し、※[#「弗+色」、第3水準1−90−60]然《ふつぜん》として怒り莞爾《かんじ》として笑いしその有様《ありさま》を回想すれば、正《まさ》にこれ火打箱《ひうちばこ》の隅《すみ》に屈伸《くっしん》して一場の夢を見たるのみ。しかのみならず今日に至《いたり》ては、その御広間もすでに湯屋《ゆや》の薪《たきぎ》となり、御記録も疾《と》く紙屑屋《かみくずや》の手に渡りたるその後において、なお何物に恋々《れんれん》すべきや。また今の旧下士族が旧上士族に向い、旧時の門閥《もんばつ》虚威《きょい》を咎《とが》めてその停滞《ていたい》を今日に洩《も》らさんとするは、空屋《あきや》の門に立《たち》て案内を乞《こ》うがごとく、蛇《へび》の脱殻《ぬけがら》を見て捕《とら》えんとする者のごとし。いたずらに自《みず》から愚《ぐ》を表《あらわ》して他《た》の嘲《あざけり》を買うに過ぎず。すべて今の士族はその身分を落したりとて悲しむ者多けれども、落すにも揚《あぐ》るにも結局物の本位を定めざるの論なり。平民と同格なるはすなわち下
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