が適《てき》として帰《き》するところを失い、或はこれがためその品行を破《やぶっ》て自暴自棄《じぼうじき》の境界《きょうがい》にも陥《おちい》るべきところへ、いやしくも肉体以上の心を養い、不覊独立《ふきどくりつ》の景影《けいえい》だにも論ずべき場所として学校の設《もうけ》あれば、その状、恰《あたか》も暗黒の夜に一点の星を見るがごとく、たとい明《めい》を取るに足《た》らざるも、やや以て方向の大概を知るべし。故に今の旧藩地の私立学校は、啻《ただ》に読書のみならず、別に一種の功能あるものというべし。
 余輩《よはい》常に思うに、今の諸華族が様々の仕組を設《もう》けて様々のことに財を費し、様々の憂《うれい》を憂《うれえ》て様々の奇策《きさく》妙計《みょうけい》を運《めぐ》らさんよりも、むしろその財の未《いま》だ空《むな》しく消散《しょうさん》せざるに当《あたり》て、早く銘々の旧藩地に学校を立てなば、数年の後は間接の功を奏して、華族の私《わたくし》のためにも藩地の公共のためにも大なる利益あるべしと。これを企望《きぼう》すること切《せつ》なれども、誰に向《むかっ》てその利害《りがい》を説くべき路《み
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