かん》に附《ふ》すべからざるものなれども、これがために所期百年の教育上に影響を及ぼすとは憐むべき次第ならずや。かく政治と学問と密着するときは、甲者の変勢にさいして常に乙者の動揺を生じ、その変いよいよはなはだしければその余波もまた、いよいよ劇なり。
 ここに一例をあぐれば、旧幕府の時代、江戸に開成学校なるものを設立して学生を教育し、その組織ずいぶん盛大なるものにして、あたかも日本国中洋学の中心とも称すべき姿なりしが、一朝《いっちょう》幕政府の顛覆《てんぷく》に際して、生徒教員もたちまち四方に散じて行くところを知らず、東征の王師、必ずしも開成校を敵としてこれを滅《ほろぼ》さんとするの意もなかりしことならんといえども、学者の輩がかくも狼狽《ろうばい》して、一朝にして一大学校を空了《くうりょう》して、日本国の洋学が幕府とともに廃滅したるは何ぞや。開成校は幕政府中の学校にして、時の政治に密着したるがゆえなり。
 語をかえていえば、開成校は幕府政党にくみして、その生徒教員もおのずからその党派の人なりしがゆえなり。この輩が学者の本色《ほんしょく》を忘却して世変に眩惑し、目下の利害を論じて東走西馳に忙
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