からず、商法講ぜざるべからずとて、しきりにこれを奨励して、後進の青年を商工の一方に教育せんとするその最中《さいちゅう》に、外国政治上の報告を聞けば、近来はなはだ穏《おだやか》ならず、欧洲各国の形勢云々なるのみならず、近く隣国の支那において、大臣某氏が政権をとりて、その政略はかくの如し、あるいは東洋全面の風波も計るべからず、不虞《ふぐ》に予備するは廟算《びょうさん》の極意《ごくい》にして、目下の急は武備を拡張して士気を振起するにあり、学校教育の風も文弱に流れずして尚武《しょうぶ》の気を奨励するこそ大切なれとて、その針路に向うときは、さきに工芸商法を講習してまさに殖産の道を学ばんとしたる学生も、たちまち経済書を廃して兵書を読み、筆を投じて戎軒《じゅうけん》を事とするの念を発すべし。
少年の心事、その軟弱なること杞柳《きりゅう》の如く、他の指示するところにしたがいて変化すること、はなはだやすし。而《しか》してその指示の原因はいずれよりすと尋ぬるに、一両年間、貿易輸出入の不平均か、もしくは隣国一大臣の進退にすぎず。内国貿易の景況、隣国交際の政略、当局の政治家においては実に大切にして等閑《とう
前へ
次へ
全44ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング