れり。よって今、論者諸賢のため全篇通読の便利を計り、これを重刊して一冊子となすという。
明治一六年二月[#地から2字上げ]編者識
[#改ページ]
学問の独立
学問も政治も、その目的を尋ぬれば、ともに一国の幸福を増進せんとするものより外ならずといえども、学問は政治に非ずして、学者は政治家に異なり。けだしその異なるゆえんは何ぞや。学者の事は社会今日の実際に遠くして、政治家の働は日常人事の衝《しょう》にあたるものなればなり。これをたとえば、一国はなお一人の身体の如くにして、学者と政治家と相ともにこれを守り、政治家は病にあたりて治療に力を用い、学者は平生の摂生法を授くる者の如し。開闢《かいびゃく》以来今にいたるまで、智徳ともに不完全なる人間社会は、一人の身体いずれの部分か必ず痛所《いたみどころ》あるものに異ならず。治療に任ずる政治家の繁忙なる、もとより知るべし。然るに学者が平生より養生の法を説きて社会を警《いまし》むることあれば、あるいはその病《やまい》を未発に防ぎ、あるいはたとい発病に及ぶも、大病にいたらずして癒《いゆ》るを得べし。すなわち間接の働にして、学問の力もまた大な
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