しそれはたして然らば、一婦をして衆夫を養わしめ、これを男妾と名づけて家族第二等親の位にあらしめなば如何《いかん》。かくのごとくしてよくその家を治め、人間交際の大義に毫《ごう》も害することなくば、余が喋々《ちょうちょう》の議論をもやめ、口を閉ざしてまた言わざるべし。天下の男子よろしくみずから顧みるべし。或る人またいわく、「妾を養うは後あらしめんがためなり、孟子《もうし》の教えに不孝に三つあり、後なきを大なりとす」と。余答えていわく、天理に戻《もと》ることを唱うる者は孟子にても孔子にても遠慮に及ばず、これを罪人と言いて可なり。妻を娶《めと》り、子を生まざればとてこれを大不孝とは何事ぞ。遁辞《とんじ》と言うもあまりはなはだしからずや。
 いやしくも人心を具えたる者なれば、誰か孟子の妄言《ぼうげん》を信ぜん。元来不孝とは、子たる者にて理に背《そむ》きたることをなし、親の身心をして快からしめざることを言うなり。もちろん老人の心にて孫の生まるるは悦ぶことなれども、孫の誕生が晩《おそ》しとて、これをその子の不幸と言うべからず。試みに天下の父母たる者に問わん。子に良縁ありてよき嫁を娶り、孫を生まずとて
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