こに妾《めかけ》の議論あり。世に生まるる男女の数は同様なる理なり。西洋人の実験によれば、男子の生まるることは女子よりも多く、男子二十二人に女子二十人の割合なりと。されば一夫にて二、三の婦人を娶《めと》るはもとより天理に背くこと明白なり。これを禽獣と言うも妨げなし。父をともにし母をともにする者を兄弟と名づけ、父母兄弟ともに住居するところを家と名づく。しかるに今、兄弟、父をともにして母を異にし、一父独立して衆母は群を成せり。これを人類の家と言うべきか。家の字の義を成さず。たといその楼閣は巍々《ぎぎ》たるも、その宮室は美麗なるも、余が眼をもってこれを見れば人の家にあらず、畜類の小屋と言わざるを得ず。妻妾《さいしょう》、家に群居して家内よく熟和するものは、古今いまだその例を聞かず。妾といえども人類の子なり。一時の欲のために人の子を禽獣のごとくに使役し、一家の風俗を乱りて子孫の教育を害し、禍を天下に流して毒を後世に遺《のこ》すもの、豈《あに》これを罪人と言わざるべけんや。
 人あるいはいわく、「衆妾を養うもその処置よろしきを得《う》れば人情を害することなし」と。こは夫子みずから言うの言葉なり。も
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