し、神代の諸尊、周の世の聖賢も、草葉の蔭にて満足なるべし。いまその功徳の一、二を挙げて示すこと左のごとし。
 政府の強大にして小民を制圧するの議論は、前編にも記したるゆえここにはこれを略し、まず人間男女の間をもってこれを言わん。そもそも世に生まれたる者は、男も人なり女も人なり。この世に欠くべからざる用をなすところをもって言えば、天下一日も男なかるべからず、また女なかるべからず。その功能いかにも同様なれども、ただその異なるところは、男は強く女は弱し。大の男の力にて女と闘わば必ずこれに勝つべし。すなわちこれ男女の同じからざるところなり。いま世間を見るに、力ずくにて人の物を奪うか、または人を恥ずかしむる者あれば、これを罪人と名づけて刑にも行なわるることあり。しかるに家の内にては公然と人を恥ずかしめ、かつてこれを咎むる者なきはなんぞや。
『女大学』という書に、「婦人に三従の道あり、稚《おさな》き時は父母に従い、嫁《よめ》いる時は夫に従い、老いては子に従うべし」と言えり。稚き時に父母に従うは尤《もっと》もなれども、嫁いりて後に夫に従うとはいかにしてこれに従うことなるや、その従うさまを問わざるべか
前へ 次へ
全187ページ中84ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング