求むることなおわが朋友を慕うがごとくなれば、世の交わりは相互いのことなり。ただこの五つの力を用うるに当たり、天より定めたる法に従いて、分限を越えざること緊要なるのみ。すなわちその分限とは、我もこの力を用い、他人もこの力を用いて、相互にその働きを妨げざるを言うなり。かくのごとく、人たる者の分限を誤らずして世を渡るときは、人に咎《とが》めらるることもなく、天に罪せらるることもなかるべし。これを人間の権義と言うなり。
 右の次第により、人たる者は他人の権義を妨げざれば、自由自在に己《おの》が身体を用うるの理あり。その好むところに行き、その欲するところに止まり、あるいは働き、あるいは遊び、あるいはこの事を行ない、あるいはかの業をなし、あるいは昼夜勉強するも、あるいは意に叶わざれば無為にして終日寝るも、他人に関係なきことなれば、傍《かたわら》よりかれこれとこれを議論するの理なし。
 今もし前の説に反し、「人たる者は理非にかかわらず他人の心に従いて事をなすものなり、わが了簡を出だすはよろしからず」という議論を立つる者あらん。この議論はたして理の当然なるか。理の当然ならばおよそ人と名のつきたる者の住
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