ゆえに一国はなお商社のごとく、人民はなお社中の人のごとく、一人にて主客二様の職を勤むべき者なり。
 第一 客の身分をもって論ずれば、一国の人民は国法を重んじ人間同等の趣意を忘るべからず。他人の来たりてわが権義を害するを欲せざれば、われもまた他人の権義を妨《さまた》ぐべからず。わが楽しむところのものは他人もまたこれを楽しむがゆえに、他人の楽しみを奪いてわが楽しみを増すべからず、他人の物を盗んでわが富となすべからず、人を殺すべからず、人を讒《ざん》すべからず、まさしく国法を守りて彼我《ひが》同等の大義に従うべし。また国の政体によりて定まりし法は、たといあるいは愚かなるも、あるいは不便なるも、みだりにこれを破るの理なし。師《いくさ》を起こすも外国と条約を結ぶも政府の権にあることにて、この権はもと約束にて人民より政府へ与えたるものなれば、政府の政に関係なき者はけっしてそのことを評議すべからず。
 人民もしこの趣意を忘れて、政府の処置につきわが意に叶《かな》わずとて恣《ほしいまま》に議論を起こし、あるいは条約を破らんとし、あるいは師《いくさ》を起こさんとし、はなはだしきは一騎先駆け、自刃を携えて
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