きところなれば、謹んで法を守り国民たるの分を誤らざるの方、上策なるべしとて、ついにこの始末に及びしことなり。もとより一私塾の処置にてこのこと些末に似たれども、議論の趣意は世教にも関わるべきことと思い、ついでながらこれを巻末に記すのみ。
[#改段]

 七編



   国民の職分を論ず

 第六編に国法の貴きを論じ、「国民たる者は一人にて二人前の役目を勤むるものなり」と言えり。今またこの役目職分の事につき、なおその詳《つまび》らかなるを説きて六編の補遺となすこと左のごとし。
 およそ国民たる者は一人の身にして二ヵ条の勤めあり。その一の勤めは政府の下に立つ一人の民たるところにてこれを論ず、すなわち客のつもりなり。その二の勤めは国中の人民申し合わせて、一国と名づくる会社を結び、社の法を立ててこれを施し行なうことなり、すなわち主人のつもりなり。譬《たと》えばここに百人の町人ありてなんとかいう商社を結び、社中相談のうえにて社の法を立て、これを施し行なうところを見れば、百人の人はその商社の主人なり。すでにこの法を定めて、社中の人いずれもこれに従い違背せざるところを見れば、百人の人は商社の客なり。
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