飛び出すなどの挙動に及ぶことあらば、国の政《まつりごと》は一日も保つべからず。これを譬えばかの百人の商社兼ねて申し合せのうえ、社中の人物十人を選んで会社の支配人と定め置き、その支配人の処置につき、残り九十人の者どもわが意に叶《かな》わずとて銘々に商法を議し、支配人は酒を売らんとすれば九十人の者は牡丹餅《ぼたもち》を仕入れんとし、その評議区々にて、はなはだしきは一了簡をもって私に牡丹餅の取引きを始め、商社の法に背きて他人と争論に及ぶなどのことあらば、会社の商売は一日も行なわるべからず。ついにその商社の分散するに至らば、その損亡《そんもう》は商社百人一様の引受けなるべし。愚もまたはなはだしきものと言うべし。ゆえに国法は不正不便なりといえども、その不正不便を口実に設けてこれを破るの理なし。もし事実において不正不便の箇条あらば、一国の支配人たる政府に説き勧めて静かにその法を改めしむべし。政府もしわが説に従わずんば、かつ力を尽くしかつ堪忍して時節を待つべきなり。
 第二 主人の身分をもって論ずれば、一国の人民はすなわち政府なり。そのゆえは一国中の人民|悉皆《しっかい》政をなすべきものにあらざれば
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