となすうえは必ず厳にその趣意を達せざるべからず。人民は政府の定めたる法を見て不便なりと思うことあらば、遠慮なくこれを論じて訴うべし。すでにこれを認めてその法の下に居るときは、私にその法を是非することなく謹んでこれを守らざるべからず。
近くは先月わが慶応義塾にも一事あり。華族|太田資美《おおたすけよし》君、一昨年より私金を投じて米国人を雇い、義塾の教員に供えしが、このたび交代の期限に至り、他の米人を雇い入れんとして、当人との内談すでに整いしにつき、太田氏より東京府へ書面を出だしこの米人を義塾に入れて文学・科学の教師に供えんとの趣を出願せしところ、文部省の規則に、「私金をもって私塾の教師を雇い、私に人を教育するものにても、その教師なる者、本国にて学科卒業の免状を得てこれを所持するものにあらざれば雇入れを許さず」との箇条あり。しかるにこのたび雇い入れんとする米人、かの免状を所持せざるにつき、ただ語学の教師とあればともかくもなれども、文学・科学の教師としては願いの趣、聞き届け難き旨《むね》、東京府より太田氏へ御沙汰なり。
よって福沢諭吉より同府へ書を呈し、「この教師なる者、免状を所持せざる
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