むを得ず家内申し合わせて私にこれを防ぎ、当座の取り計らいにてこの強盗を捕え置き、しかる後に政府へ訴え出ずるなり。これを捕うるにつきては、あるいは棒を用い、あるいは刃物を用い、あるいは賊の身に疵《きず》つくることもあるべし、あるいはその足を打ち折ることもあるべし、事急なるときは鉄砲をもって打ち殺すこともあるべしといえども、結局主人たる者は、わが生命を護り、わが家財を守るために一時の取り計らいをなしたるのみにて、けっして賊の無礼を咎《とが》め、その罪を罰するの趣意にあらず。
 罪人を罰するは政府に限りたる権なり、私の職分にあらず。ゆえに私の力にてすでにこの強盗を取り押え、わが手に入りしうえは、平人の身としてこれを殺しこれを打擲《ちょうちゃく》すべからざるはもちろん、指一本を賊の身に加うることをも許さず、ただ政府に告げて政府の裁判を待つのみ。もしも賊を取り押えしうえにて、怒りに乗じてこれを殺し、これを打擲することあれば、その罪は無罪の人を殺し、無罪の人を打擲するに異ならず。譬えば某国の律に、「金十円を盗む者はその刑、笞《むち》一百、また足をもって人の面を蹴《け》る者もその刑、笞一百」とあり。
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