て獄屋に繋《つな》ぐも政府の権なり、公事《くじ》訴訟を捌《さば》くも政府の権なり、乱暴・喧嘩を取り押うるも政府の権なり。これらの事につき、国民は少しも手を出だすべからず。もし心得違いして私に罪人を殺し、あるいは盗賊を捕えてこれを笞《むち》うつ等のことあれば、すなわち国の法を犯し、みずから私に他人の罪を裁決する者にて、これを私裁と名づけ、その罪|免《ゆる》すべからず。この一段に至りては文明諸国の法律はなはだ厳重なり。いわゆる威ありて猛《たけ》からざるものか。わが日本にては政府の威権盛んなるに似たれども、人民ただ政府の貴きを恐れてその法の貴きを知らざる者あり。今ここに私裁のよろしからざる所以と国法の貴き所以とを記すこと左のごとし。
譬《たと》えばわが家に強盗の入り来たりて、家内の者を威《おど》し金を奪わんとすることあらん。この時に当たり、家の主人たる者の職分は、この事の次第を政府に訴え、政府の処置を待つべきはずなれども、事火急にして出訴の間合いもなく、かれこれするうちにかの強盗はすでに土蔵へ這入《はい》りて金を持ち出さんとするの勢いあり。これを止めんとすれば主人の命も危き場合なるゆえ、や
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