を免れて、数年独立の名を失わず、独立の塾にいて独立の気を養い、その期するところは全国の独立を維持するの一事にあり。然りといえども、時勢の世を制するやその力急流のごとくまた大風のごとし。この勢いに激して屹立《きつりつ》するはもとより易《やす》きにあらず、非常の勇力あるにあらざれば、知らずして流れ識《し》らずして靡《なび》き、ややもすればその脚を失するの恐れあるべし。そもそも人の勇力はただ読書のみによりて得べきものにあらず。読書は学問の術なり、学問は事をなすの術なり。実地に接して事に慣るるにあらざればけっして勇力を生ずべからず。わが社中すでにその術を得たる者は、貧苦を忍び艱難《かんなん》を冒して、その所得の知見を文明の事実に施さざるべからず。その科《とが》は枚挙に遑《いとま》あらず。商売勤めざるべからず、法律議せざるべからず、工業起こさざるべからず、農業勧めざるべからず、著書・訳術・新聞の出版、およそ文明の事件はことごとく取りてわが私有となし、国民の先をなして政府と相助け、官の力と私の力と互いに平均して一国全体の力を増し、かの薄弱なる独立を移して動かすべからざるの基礎に置き、外国と鋒《ほこ
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