さき》を争いて毫《ごう》も譲ることなく、今より数十の新年を経て、顧みて今月今日の有様を回想し、今日の独立を悦ばずしてかえってこれを愍笑《びんしょう》するの勢いに至るは、豈《あに》一大快事ならずや。学者よろしくその方向を定めて期するところあるべきなり。
[#改段]
六編
国法の貴きを論ず
政府は国民の名代にて、国民の思うところに従い事をなすものなり。その職分は罪ある者を取り押えて罪なき者を保護するよりほかならず。すなわちこれ国民の思うところにして、この趣意を達すれば一国内の便利となるべし。元来罪ある者とは悪人なり、罪なき者とは善人なり。いま悪人来たりて善人を害せんとすることあらば、善人みずからこれを防ぎ、わが父母妻子を殺さんとする者あらば捕えてこれを殺し、わが家財を盗まんとする者あらば捕えてこれを笞《むち》うち、差しつかえなき理なれども、一人の力にて多勢の悪人を相手にとり、これを防がんとするも、とても叶うべきことにあらず。
たとい、あるいはその手当てをなすも莫大の入費にて益もなきことなるゆえ、右のごとく国民の総代として政府を立て、善人保護の職分を勤めしめ、その代わり
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