、わが輩まず私立の地位を占め、あるいは学術を講じ、あるいは商売に従事し、あるいは法律を議し、あるいは書を著《あら》わし、あるいは新聞紙を出版するなど、およそ国民たるの分限に越えざることは忌諱を憚《はばか》らずしてこれを行ない、固く法を守りて正しく事を処し、あるいは政令信ならずして曲を被《こうむ》ることあらば、わが地位を屈せずしてこれを論じ、あたかも政府の頂門に一針を加え、旧弊を除きて民権を恢復《かいふく》せんこと方今至急の要務なるべし。
もとより私立の事業は多端、かつこれを行なう人にもおのおの所長あるものなれば、わずかに数輩の学者にて悉皆その事をなすべきにあらざれども、わが目的とするところは事を行なうの巧みなるを示すにあらず、ただ天下の人に私立の方向を知らしめんとするのみ。百回の説諭を費やすは一回の実例を示すに若かず。今われより私立の実例を示し、「人間の事業はひとり政府の任にあらず。学者は学者にて私に事を行なうべし、町人は町人にて私に事をなすべし、政府も日本の政府なり、人民も日本の人民なり、政府は恐るべからず近づくべし、疑うべからず親しむべし」との趣を知らしめなば、人民ようやく向かう
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