められ、裁判所には叱られ、一人扶持《いちにんぶち》取る足軽に逢《あ》いてもお旦那さまと崇《あが》めし魂は腹の底まで腐れつき、一朝一夕に洗うべからず、かかる臆病神の手下どもが、かの大胆不敵なる外国人に逢いて、胆をぬかるるは無理ならぬことなり。これすなわち内に居て独立を得ざる者は外にありても独立すること能わざるの証拠なり。
 第三条 独立の気力なき者は人に依頼して悪事をなすことあり。
 旧幕府の時代に名目金《みょうもくきん》とて、御三家などと唱うる権威強き大名の名目を借りて金を貸し、ずいぶん無理なる取引きをなせしことあり。その所業はなはだ悪《にく》むべし。自分の金を貸して返さざる者あらば、再三再四力を尽くして政府に訴うべきなり。しかるにこの政府を恐れて訴うることを知らず、きたなくも他人の名目を借り他人の暴威によりて返金を促《うなが》すとは卑怯なる挙動ならずや。今日に至りては名目金の沙汰は聞かざれども、あるいは世間に外国人の名目を借る者はあらずや。余輩いまだその確証を得ざるゆえ明らかにここに論ずること能わざれども、昔日のことを思えば今の世の中にも疑念なきを得ず。こののち万々一も外国人雑居など
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