の場合に及び、その名目を借りて奸《かん》を働く者あらば、国の禍《わざわい》、実に言うべからざるべし。ゆえに人民に独立の気力なきはその取扱いに便利などとて油断すべからず。禍は思わぬところに起こるものなり。国民に独立の気力いよいよ少なければ、国を売るの禍もまたしたがってますます大なるべし。すなわちこの条のはじめに言える、人に依頼して悪事をなすとはこのことなり。
右三ヵ条に言うところはみな、人民に独立の心なきより生ずる災害なり。今の世に生まれいやしくも愛国の意あらん者は、官私を問わずまず自己の独立を謀《はか》り、余力あらば他人の独立を助け成すべし。父兄は子弟に独立を教え、教師は生徒に独立を勧め、士農工商ともに独立して国を守らざるべからず。概してこれを言えば、人を束縛してひとり心配を求むるより、人を放ちてともに苦楽を与《とも》にするに若《し》かざるなり。
[#改段]
四編
学者の職分を論ず
近来ひそかに識者の言を聞くに、「今後日本の盛衰は人智をもって明らかに計り難しといえども、つまり、その独立を失うの患《うれ》いはなかるべしや、方今目撃するところの勢いによりてしだいに進歩
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