怨言を発し、面に不平を顕《あら》わし、身外みな敵のごとく、天下みな不親切なるがごとし。その心中を形容すれば、かつて人に金を貸さずして返金の遅きを怨むものと言うも可なり。
儒者は己れを知る者なきを憂い、書生は己れを助くる者なきを憂い、役人は立身の手がかりなきを憂い、町人は商売の繁盛せざるを憂い、廃藩の士族は活計の路なきを憂い、非役《ひやく》の華族は己れを敬する者なきを憂い、朝々暮々憂いありて楽あることなし。今日世間にこの類の不平はなはだ多きを覚ゆ。その証を得んと欲せば、日常交際の間によく人の顔色を窺《うかが》い見て知るべし。言語・容貌、活発にして胸中の快楽|外《そと》に溢《あふ》るるがごとき者は、世上にその人はなはだまれなるべし。余輩の実験にては、常に人の憂うるを見て悦ぶを見ず、その面を借用したらば不幸の見舞いなどに至極よろしからんと思わるるものこそ多けれ、気の毒千万なる有様ならずや。もしこれらの人をしておのおのその働きの分限に従いて勤むることあらしめなば、おのずから活発|為事《いじ》の楽地を得て、しだいに事業の進歩をなし、ついには心事と働きと相平均するの場合にも至るべきはずなるに、か
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