慮歳月を積み、ようやくその性質を明らかにして取捨を判断せざるべからず。しかるに近日世上の有様を見るに、いやしくも中人以上の改革者流、あるいは開化先生と称する輩は、口を開けば西洋文明の美を称し、一人これを唱うれば万人これに和し、およそ智識、道徳の教えより治国、経済、衣食住の細事に至るまでも、悉皆《しっかい》西洋の風を慕うてこれに倣わんとせざるものなし。あるいはいまだ西洋の事情につきその一斑をも知らざる者にても、ひたすら旧物を廃棄してただ新をこれ求むるもののごとし。なんぞそれ事物を信ずるの軽々にして、またこれを疑うの粗忽《そこつ》なるや。西洋の文明はわが国の右に出ずること必ず数等ならんといえども、けっして文明の十全なるものにあらず。その欠点を計《かぞ》うれば枚挙に遑《いとま》あらず。彼の風俗ことごとく美にして信ずべきにあらず、我の習慣ことごとく醜にして疑うべきにあらず。
譬《たと》えばここに一少年あらん。学者先生に接してこれに心酔し、その風に倣わんとしてにわかに心事を改め、書籍を買い、文房の具を求めて、日夜机に倚《よ》りて勉強するはもとより咎《とが》むべきにあらず。これを美事と言うべし。
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