不都合なるに似たれども、一身の私徳において恵与の心はもっとも貴ぶべく最も好《よ》みすべきものなり。譬《たと》えば天下に乞食を禁ずるの法はもとより公明正大なるものなれども、人々の私において乞食に物を与えんとするの心は咎むべからず。人間万事算盤を用いて決定すべきものにあらず、ただその用ゆべき場所と用ゆべからざる場所とを区別すること緊要なるのみ。世の学者、経済の公論に酔いて仁恵の私徳を忘るるなかれ。
[#改段]

 十五編



   事物を疑いて取捨を断ずること

 信の世界に偽詐《ざさ》多く、疑いの世界に真理多し。試みに見よ、世間の愚民、人の言を信じ、人の書を信じ、小説を信じ、風聞を信じ、神仏を信じ、卜筮《ぼくぜい》を信じ、父母の大病に按摩《あんま》の説を信じて草根木皮を用い、娘の縁談に家相見《かそうみ》の指図を信じて良夫を失い、熱病に医師を招かずして念仏を申すは阿弥陀如来《あみだにょらい》を信ずるがためなり。三七日の断食に落命するは不動明王《ふどうみょうおう》を信ずるがゆえなり。この人民の仲間に行なわるる真理の多寡を問わば、これに答えて多しと言うべからず。真理少なければ偽詐多からざるを
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