得ず。けだしこの人民は事物を信ずといえども、その信は偽を信ずる者なり。ゆえにいわく、「信の世界に偽詐多し」と。
文明の進歩は、天地の間にある有形の物にても、無形の人事にても、その働きの趣を詮索して真実を発明するにあり。西洋諸国の人民が今日の文明に達したるその源を尋ぬれば、疑いの一点より出でざるものなし。ガリレオが天文の旧説を疑いて地動を発明し、ガルハニが蟆《がま》の脚の※[#「てへん+畜」、第3水準1−84−85]搦《ちくじゃく》するを疑いて動物のエレキを発明し、ニュートンが林檎《りんご》の落つるを見て重力の理に疑いを起こし、ワットが鉄瓶の湯気を弄《もてあそ》んで蒸気の働きに疑いを生じたるがごとく、いずれもみな疑いの路によりて真理の奥に達したるものと言うべし。格物窮理の域を去りて、顧みて人事進歩の有様を見るもまたかくのごとし。売奴法の当否を疑いて天下後世に惨毒の源を絶えたる者は、トーマス・クラレクソンなり。ローマ宗教の妄誕を疑いて教法に一面目を改めたる者はマルチン・ルーザなり。フランスの人民は貴族の跋扈《ばっこ》に疑いを起こして騒乱の端を開き、アメリカの州民は英国の成法に疑いを容れて
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