物《いきもの》にて容易にその機変を前知すべからず。これがために智者といえども案外に愚を働くもの多し。
 また人の企ては常に大なるものにて、事の難易大小と時日の長短とを比較することはなはだ難《かた》し。フランキリン言えることあり、「十分と思いし時も事に当たれば必ず足らざるを覚ゆるものなり」と。この言まことに然り。大工に普請を言いつけ、仕立屋に衣服を注文して、十に八、九は必ずその日限を誤らざる者なし。こは大工・仕立屋のことさらに企てたる不埒《ふらち》にあらず。そのはじめに仕事と時日とを精密に比較せざりしより、はからずも違約に立ち至りたるのみ。さて世間の人は大工・仕立屋に向かいて違約を責むることは珍しからず、これを責むるにまた理屈なきにあらず。大工・仕立屋は常に恐れ入り、旦那はよく道理のわかりたる人物のように見ゆれども、その旦那なる者がみずから自分の請け合いたる仕事につき、はたして日限のとおりに成したることあるや。
 田舎《いなか》の書生、国を出《い》ずるときは、難苦を嘗《な》めて三年のうちに成業とみずから期したる者、よくその心の約束を践《ふ》みたるや。無理な才覚をして渇望したる原書を求め、
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