》ばざるに非ずといえども、その趣意はただちに政府の内に突入して官員の事務を妨ぐるか、または官員に代りて事をなさんとするの義に非ず。人民は人民の地位にいて、自家の領分内に沢山なる事務に力をつくさんことを欲するのみ。
すなわち、これ広き字義にしたがいて国政にかかわるものというべし。ただちに政府に接せずして、間接にその政に参与するものというべし。間接の勢は直接の力よりもかえって強きものなり。学者これを思わざるべからず。今の人民の世界にいて事を企《くわだ》つるは、なお、蝦夷地《えぞち》に行きて開拓するが如し。事の足らざるは患《うれい》に非ず、力足らざるを患《うれ》うべきなり。
然るに、今の学者はその思想を一方に偏し、ひたすら政府の政に向って心を労するのみにして、自家の領分には毫《ごう》も余地を見出さざるものの如し。たとえば世に、商売工業の議論あり、物産製作の議論あり、華士族処分の議論あり、家産相続法の議論あり、宗旨の得失を論ずる者あり、教育の是非を議する者あり、学校設立の説を述《のぶ》る者あり、文字改革の議を発する者あり。
いずれも皆、国の文明のために重大なる事件にして、学者のこれに着眼
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