にこれを引請けざるべからず。国の盛衰を引請くるとは、すなわち国政にかかわることなり。人民は国政に関《かん》せざるべからざるなり。然りといえども、余輩が今ここにいうところの政《せい》の字は、その意味のもっとも広きものにして、ただ政府の官員となり政府の役所に坐して事を商議施行するのみをもって、政《まつりごと》にかかわるというに非ず。人民みずから自家の政に従事するの義を旨とするものなり。
たとえば政府にて、学校を立てて生徒を教え、大蔵省を設けて租税を集むるは、政府の政なり。平民が、学塾を開いて生徒を教え、地面を所有して地代|小作米《こさくまい》を取立つるは、これを何と称すべきや。政府にては学校といい、平民にては塾といい、政府にては大蔵省といい、平民にては帳場といい、その名目《みょうもく》は古来の習慣によりて少しく不同あれども、その事の実は毫《ごう》も異なることなし。すなわち、これを平民の政といいて可《か》なり。
古《いにしえ》より家政などいう熟字あり。政《せい》の字は政府に限らざることあきらかに知るべし。結局政府に限りて人民の私《わたくし》に行うべからざる政は、裁判の政なり、兵馬の政なり
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