政府の精神は改進にあること明白なりというべし。然《しから》ばすなわち、いやしくも改進者流をもって自からおる者は、たとい官員にても平人にても、この政府の精神とともに方向をともにし、その改むるところを改め、その進むところに進み、次第に自家の境界を開きて前途に敵なく、ついには、かの守旧家の強きものをも、戦わずして我が境界の内に籠絡《ろうらく》するの勢にいたるべきはずなるに、今日の事実において然らざるは何ぞや。その原因は他なし、この改進者流の人々が、おのおのその地位におりて心情の偏重を制すること能わず、些々《ささ》たる地位の利害に眼《まなこ》をおおわれて事物の判断を誤り、現在の得失に終身の力を用いて、永遠重大の喜憂をかえりみざるによりて然るのみ。
 内閣にしばしば大臣の進退あり、諸省府に時々《じじ》官員の黜陟《ちゅっちょく》あり。いずれも皆、その局に限りてやむをえざるの情実に出でたることならん、珍しからぬことなれば、その得失を評するにも及ばず。余輩がとくにここに論ぜざるべからざるものは、かの改進者流の中にても、もっとも喧《かしま》しき政談家のことなり。この政談家は、政府の内にもあり、また外にも
前へ 次へ
全30ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング