なかッたんだから……。吉里さん、私しゃ今朝のように嬉しいことはない。私しゃ花魁買いということを知ッたのは、お前さんとこが始めてなんだ。私しは他の楼《うち》の味は知らない。遊び納めもまたお前さんのとこなんだ。その間《うち》にはいろいろなことを考えたこともあッた、馬鹿なことを考えたこともあッた、いろいろなことを思ッたこともあッたが、もう今――明日はどうなるんだか自分の身の置場にも迷ッてる今になッて、今朝になッて……。吉里さん、私しゃ何とも言えない心持になッて来た」と、善吉は話すうちにたえず涙を拭いて、打ち出した心には何の見得もないらしかッた。
吉里は平田と善吉のことが、別々に考えられたり、混和《いりまじ》ッて考えられたりする。もう平田に会えないと考えると心細さはひとしおである。平田がよんどころない事情とは言いながら、何とか自分をしてくれる気があッたら、何とかしてくれることが出来たりそうなものとも考える傍から、善吉の今の境界《きょうがい》が、いかにも哀れに気の毒に考えられる。それも自分ゆえであると、善吉の真情《まごころ》が恐ろしいほど身に染《し》む傍から、平田が恋しくて恋しくてたまらなくな
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