へ行くんでしょうね」
「今の汽車かね。青森まで行かなきゃ、仙台で止るんだろう」
「仙台。神戸にはいつごろ着くんでしょう」
「神戸に。それは、新橋の汽車でなくッちゃア。まるで方角違いだ」
「そう。そうだ新橋だッたんだよ」と、吉里はうつむいて、「今晩の新橋の夜汽車だッたッけ」
吉里は次の間の長火鉢の傍に坐ッて、箪笥《たんす》にもたれて考え始めた。善吉は窓の障子を閉めて、吉里と火鉢を挾んで坐り、寒そうに懐手をしている。
洗い物をして来たお熊は、室の内に入りながら、「おや、もうお起きなすッたんですか。もすこしお臥《よ》ッてらッしゃればいいのに」と、持ッて来た茶碗《ちゃわん》小皿などを茶棚《ちゃだな》へしまいかけた。
「なにもう寝なくッても――こんなに明るくなッちゃア寝てもいられまい。何しろ寒くッて、これじゃアたまらないや。お熊どん、私の着物を出してもらおうじゃないか」
「まアいいじゃアありませんか。今朝はゆっくりなすッて、一口召し上ッてからお帰りなさいましな」
「そうさね。どうでもいいんだけれど、何しろ寒くッて」
「本統に馬鹿にお寒いじゃあありませんかね。何か上げましょうね。ちょいとこれで
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