男に思はれない一人の女が夜の二時に起き出して髪を梳いてゐるとほととぎすが啼いて通つた。華やかなことの好きだつた晶子さんには斯ういふ一面もあつた。 誓ひ言我が守る日は神に似ぬ少し忘れてあれば魔に似る [#空白は底本では「。」]その魔に似る一面で、時には強烈な嫉妬の形を取つて現はれることもあつたやうだ。

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雪|被《かぶ》り尼の姿を作るとも山の愁は限りあらまし
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 箱根の山に雪が降つて尼の様な姿になつた。山の愁はしかしそれだけのもの、形丈のものであらう。しかし生きてゐる限り私の心にある愁は何時迄も続いてゆくといふのである。

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君が妻は撫子※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]して月の夜に鮎の籠篇む玉川の里
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 これも昔の玉川風景の一つ。鮎漁を事とする里の若者をとらへて詠みかけた歌であらう。昼摘んだ川原撫子を簪代りに※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]した若い女房が月下に鮎の籠を編む洵にそれらしい情景が快く浮んで来る。

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