2]至る趣きが裏にかくれてはゐるが、表は冷静そのもので洵に心にくい限りである。
[#ここから2字下げ]
春の雨高野の山におん稚児の得度《とくど》の日かや鐘多く鳴る
[#ここで字下げ終わり]
春雨が降つて天地が静かに濡れてゐる。その中に鐘がしきりに鳴つてゐる。この歌のめざす情景はそれだけのものだが、それに具体性を与へて印象を深めるために高野山の得度式を持ち出したわけであらう。音楽的にも相当の効果をあげてゐる。
[#ここから2字下げ]
心にも山にも雲のはびこりて風の冷たくなりにけるかな
[#ここで字下げ終わり]
前と同じ時榛名湖畔での作。秋も深く湖畔の風が冷い、山には雲が走る、ただに山許りかは、人の心も雲で一杯だ。山上のやるせない秋のさびしさがひしひしと感ぜられる。同じ時の歌に 一つだに昔に変る山のなし寂しき秋はかからずもがな 相馬岳榛名平に別れ去るまた逢ふ日など我思はめや などがある。
[#ここから2字下げ]
六月の同じ夕《ゆふべ》に簾しぬ娘かしづく絹屋と木屋と
[#ここで字下げ終わり]
町娘鳳晶子でなければ決して作れない珍品である。又それは撫でさすりたい位の見事の出来
前へ
次へ
全349ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平野 万里 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング