当惑したりすることが毎月幾囘あるか知れません。内から自然に湧き上る熾烈な実感の嬉しさに折々出合ふ時でさへ、それの表現に行詰つて唖に等しい苦痛の中に人知れず困り切つてゐることがあります。その難関を突破して表現の自由を得た刹那に詩人らしい自負の喜びを感じるにしても、次の刹那にはまた現在の不満を覚えて、自分の歌に対する未来の不安を抱かずにゐられません。」私などもつひこの間まで詩人としての自覚がないのでその程度は尚浅いにしても同じ悩みを持つてゐたから、その苦心の状態がよく分る。しかしその不自由もやがて完全に縄の解ける日が来て遂には昔の夢になつてしまつた。この歌などがその自由を得た日の極く初めの方を記念するものの一つであらう。思つたこと――それは摩訶不可思議な、仙人の見る夢のやうな、名状すべからざるものの影に過ぎない――がそのまま歌になつて少しの渋滞の跡も示さない、斯ういふのを表現の自由といふのであつて、作者の如き才分の豊かさを以てしてもここに達するには二十年の苦しい修練を要したのである。この作も前のと同じく俵石閣で作つたもの。その庭には池があつて山の水が落ちてゐた。下の街道には荷を著けた馬が通
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