の本体であるからその氏子の島田といふのは諏訪芸者といふことになる。一晩小宴を開いた所芸者が這入つてくるといきなり炬燵にすべり入つた。晶子さんの隣へ坐つた子は小さい子で見ると島田が肩の処にある。炬燵は毎日這入つてゐて珍しくないが芸者の這入つたのが珍しくてこの歌が出来たわけである。

[#ここから2字下げ]
古へを持たず知らずと為ししかど昔のものの如く衰ふ
[#ここで字下げ終わり]

 古人の糟粕を嘗めるを屑しとしない故に私は古い物を持たない又それを知らないといつて新風を誇つて来たのである。それが如何であらう、この頃のやうに衰へて来ると昔の人の衰へた様を詠じたのと少しも変らない。

[#ここから2字下げ]
師走来て皿の白さの世となりぬ少女の如く驚かねども
[#ここで字下げ終わり]

 十二月となれば世の中がざわつき、心持に落付きがなくなり皿の白さの持つ荒涼たる光景が現出する。もしそれが少女の新鮮な感覚なら驚きに値しようが、古女にその驚きはないものの、興ざめた次第である。之も印象歌の一例。

[#ここから2字下げ]
夕月を銀の匙かと見て思ふ我が脣も知るもののごと
[#ここで字下げ終わり]


前へ 次へ
全349ページ中284ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平野 万里 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング