い。作者の白日夢でありシンフオニイである。歌を解剖したり色々詮議立をしたりなどしてはいけない。ドビツシイを味ふやうにその儘味へば滋味尽くる所を知らないであらう。繰り返し繰り返し唯口に任せて朗誦すればそれでよいのである。

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船下り船上りくる橋立の久世の切戸に慰まぬかな
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 之は昭和十五年の春作者の試みた最後の旅行で、御弟子さん数名と橋立に泊つて作つた歌の一つだ。橋立は與謝野の姓の本づく所で特に因縁が深く、そこの山上には歌碑も建つてゐる。美しい水の上を遊船がしきりに上下する久世の切戸を見てゐれば厭きることもない。それだのに私は慰まない。あるべき人がゐないからである。それが因縁の深い橋立だけにあはれも深い。

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髪に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]せばかくやくと射る夏の日や王者の花の黄金向日葵《こがねひぐるま》
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 雑誌「明星」の基調の一つは積極性であつた。さびやしをりの排撃であつた。花なら夏の向日葵が之を代表する。寛先生に有名な向日葵の詩があり、作者にこ
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