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海恋し潮《しほ》の遠鳴り数へては少女となりし父母の家
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この歌などは既に文学史上クラシツクに入るべきもので、今更鑑賞もをかしい位のものだが、いへば堺の生家を思ひ出した歌で海は静かな大伴の高師の海である。
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自らは不死の薬の壼抱く身と思ひつつ死なんとすらん
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発病の翌年の春意識の漸く囘復して歌を作りうるまでになつた時のもので、芸は長く命は短しの句を現実に自己の上に体験する作である。作者は自己の天分を深く信じその作が不朽のものであることを疑はないのに、それにも拘らず現に今死なうとしてゐる。而してそれを如何することも出来ないといふ心であらう。同じ頃の歌に 病む人ははかなかりけり縺れたる文字の外にはこし方もなし 木の間なる染井吉野の白ほどのはかなき命抱く春かな といふ様なのがある。之等はしかし、悲痛といふより反つてもの静かなあきらめの調子を帯びてゐて同調し易い。
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つゆ晴の海のやうなる玉川や酒屋の旗や黍《もろこし》の風
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之は決して写生の歌ではな
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