もはかなごとは遂にはかなごとなのであらうが。こんな風に考へて見たがこれでよいとも思へない。誰でも別に考へて見て下さい。

[#ここから2字下げ]
木枯しす妄語戒など聞く如く君と語らずなりにけるかな
[#ここで字下げ終わり]

 五戒十戒何れの戒にも妄語戒はある。外には木枯しが吹いてゐる。木枯しの声は厳しい。妄語戒のやうだ。薄い舌でべらべら口から出任せの※[#言+虚、第4水準2−88−74]を一夏しやべり続けた罰に凡ての木の葉を打ち落してしまふぞといふ木枯しの妄語戒は厳しい。さう思ふと君と話すことさへ憚られ、つい言葉少なになつて行つた。

[#ここから2字下げ]
逆に山より水の溢れこし驚きをして我は抱かる
[#ここで字下げ終わり]

 初めて男に抱かれた時の感じはこんなものであらうと女ではないが分る気がする。この歌がなければ遂に分らなかつたかも知れないから、読者の情操生活はそれだけ豊富になるわけだ。よい歌の功徳である。

[#ここから2字下げ]
霧積の泡盛草の俤の見ゆれど既にうら枯れぬらん
[#ここで字下げ終わり]

 霧積温泉で見た泡盛草の白い花がふと目に浮んで来た。しかし秋も既に終ら
前へ 次へ
全349ページ中191ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平野 万里 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング