この歌などもどうもよく分らない。再会を約した日が今日となつてしまつたがこの私の衰へ様は如何だ、それはこちら許りが物思ひにふけつた為である。さうとも知らずにこのやつれた様を何と思ふだらうといふ様に私は解くが果して如何いふものか。
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経文を伝法院に学ばんと貞子の語り蟋蟀の鳴く
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由来家常茶飯事を歌によんで立派な歌にしたてたこと作者のやうな人は先づなかつた。この歌などもさうだ。貞子とは多分今赤須貞子となつた元の圓城寺さんのことだらうと思ふが、貞子さんは病中最も多く病床に侍した人の一人である。その貞子さんが話の序に或は伝法院の表に観音経読誦会の立札か何か立つてゐた話をして私も出て見ませうかしら位のことをいつたのではないか。それをしかし一寸面白いことだと聞手は思ふ。蟋蟀がしきりに鳴いてゐる。先づこんな風にとかれるが淡々として何ともいへない面白味が感ぜられる。それは私一人の感に止るであらうか。
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里住の春雨降れば傘さして君とわが植う海棠の苗
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渋谷時代の作。「海棠の苗」とは盆栽にする様な小さい木
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