焚いてしまふ
原民喜
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)耀《ひか》るのだらう。
−−
紀元節に学校の式を休んで、翌日もまた学校を休んだ。すると、その晩から熱が出て、風邪の気味になった。私は二階の一室に一人で早くから蒲団を被って寝た。ふと、目が覚めると畳の上に白紙のやうなものが落ちてゐる。それは雨戸の節穴から月の光が洩れて来てゐるのであった。私はわざと腕を伸してその光を掬ってみた。それから窓を開けた。もう夜明けらしく、月は西の空に冴えて居て、ひえびえとした大気が、屋根の霜とともに肌に迫って来た。私は寝衣の襟をひらいて、胸一杯さらけ出した。もっと病気が重くなれと云ふやうな自棄気味が、ふと月の光によってそそられたのである。
その日は昼前から熱が出て、それに咳なども加はった。私は階下で食事を了へるとすぐ二階の一室に転げて暮した。四時頃になると、西日がガラス戸一杯に差込んで、三畳の部屋は温室のやうに暖かになった。私は日の光に曝された蒲団の上で、本などを読んだ。
次の朝も早くから目が覚めた。すると、昨日と同じく畳の上に月の光が洩れて来た。額に手を置くと、熱く火
次へ
全3ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング