照って居る。私は始めて、自分の病態の進んだのを後悔した。と云ふよりは妙にもの侘しく切ない気持がした。そろそろ窓を開けると、やはり西の空に月は皎々と照って居る。何故、冬の月は朝になってもあんなに燿《ひか》るのだらう。私は寝衣一枚で窓側に立って慄へて居た。
 一週間程して私の熱は下った。私は階下の炬燵にあたって暮した。母はもう明日からは学校へ行ってはどうだと云った。私も幾分そんな気になって居た。もう休みたいだけは休んだのだと思った。
 だが、次の日も意気地なく休んでしまった。私は訳のわからぬ憂鬱を感じた。庭に出て薪を割ってみたが、気は紛れなかった。私は二階に閉籠って、日記帳を取上げた。
「こいつを焚いてしまはう。」
「こんなものがあるからいけないのだ。」と私は呟いた。
 私は日記帳を提げて風呂竈のところへ来た。風呂の火に投げ込むと、日記帳は見るまに脹れて来た。やがて頁々がくるくる焦げて巻かれて、心に火が徹って行った。私のこの正月以来の日記が焚かれてゐる、詳しく書いた頁が燃えて居る。ふと私は妙な気になった。
(×月×日、夜姉を停車場に送り、帰って床に寝転んで、ゴオゴリの「死せる魂」を読み耽っ
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